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平成19年7月2日設置。



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「ん」
読みかけの本を閉じて、振り向く。ほんとうに神出鬼没な俺の恋人はドアに体重を任せながら髪をいじって遊んでいた。なんかこいつ見るの三日ぶりくらいな気がするんだけど気のせいだろうか、ていうか殴っていいですか。まじで。
「出雲ちゃんの仕事手伝ってきちゃった」
「はぁ、そりゃ、まあ・・・お疲れさま」
右手の拳を握りこみそうになったところでふらりと禮世が呟いた。憂鬱そうでちょっと楽しそうで楽観的で幼児みたいな笑みが違和感をおぼえる。ドアから背中を離し、軽やかにステップを踏んで俺の目の前へ。予告もなにも無しにしな垂れかかるように思いっきり力をこめて抱きついてきた。
「・・・あのー禮世さん?もしもし?」
「疲れた」
「ああ・・・あっそ」
なんかもうめんどくさくなったので、考えるのを放棄。適当に随分低い位置にある禮世の頭を撫でて、それからポニーテイルをほどいてやる。バンダナを右手に持ち替え、自分のポケットに押し込んで、一息。禮世は抱きつく力を弱めようとはせず、俺を何処にも逃がさない、みたいな構図になっていた。
ああ、禮世、そんなにつよく抱きしめなくたっていいのに、さ。
「怖かったんなら怖かったって素直に言え、頼むから」
堪忍して、こちらも抱きしめ返す。腕の中にすっぽりおさまった身体は抵抗の色を示さない。
「・・・んー・・・。わかった。気がする。努力する。最善を尽くす。ドゥー、マイ、ベスト」
「嘘つけ」
「奏枇はさぁ」
「何だね」
「・・・・・・奏枇は、なんか、すっごい弱いよね?」
確認されても困る。
でもそれは確かに嘘じゃない。
「でも、たまに、すっごい強い。ときもある」
「それはどうも。ありがとう、かな」
「うん、どういたしまして」
興味無さそうに禮世は視線をそらす。腕の力が強まる。退屈そうな顔はとても端整で、きっと美少女とでも呼称されるような見た目なのだろう。俺はもうひいき目で見てしまうから世間一般だなんて判断できないけど。
「出雲は?」
「いっつんのとこ。僕は軍人は嫌いだから帰ってきた」
「なるなる。で、ジアールは?」
「知らない。でもまああいつも僕と同じだし出雲と一緒ではないと思うよ、たぶん」
瞳がこちらを射抜く。
「なんか久々に殺ししちゃったかも。結構疲れるなー、昔は僕凄かったんだね」
「阿呆。今もお前は頭おかしいくらい強い。・・・それと殺しは別問題」
見つめ返す。
届いたかどうかは、わからない。
「僕のこと好き?」
「好き」
「愛してる?」
「もちろん」
「じゃあ、さぁ」
神出鬼没な俺の恋人は腕の中からするりと抜け出し、そのまま三歩遠のく。陰鬱そうな表情が全てを物語っている、そんな気がした。でもそんなことはなかった。禮世は精神論とか精神哲学とか心理学とかの類が大嫌いだからわざと自分の心を仕舞い込んで隠す。まるで小さな子供が大人相手にかくれんぼを挑んでいるかのように、巧みにカーテンを引く。

「きみは人殺しの僕を許容できてるってことだよね」

だから僕は禮世の心の中なんてわからない。カーテンの向こうは僕には見えない。確実にその向こうに足を踏み入れているはずなのに禮世はいつまでたっても明かりをつけてくれなかった。
だけど僕は禮世の心中を察しようと努力する。懸命にもがく。君を暴こうと尽力する。

「だからきみは人殺しの僕を愛してる」

だから僕には君の心中なんてわからない。

「そして僕も人殺しだったきみを、愛してる」


だから僕には君の心中なんてわからない。
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