忍者ブログ
平成19年7月2日設置。



[12]  [11]  [10]  [9]  [8]  [7]  [6]  [5]  [4]  [3]  [2
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「ご機嫌如何?薔薇姫様」

開け放していた窓にふわり、現すシルエット。
恭しくシルクハットを取り礼をしてみせる。

「おかげ様で危ないからと部屋に閉じ込められておりますが?」

くすくすとお姫様は立ち上がり、洋式の礼をして見せた。

「それはそれは。ご無礼を致しまして」
「そう思って下さるのなら、此処から出して欲しいのだけど?」
「それは別の形で後でして差し上げる事になります。別のお話を」

然して機嫌を損ねた風でもないお姫様はきょとん、とした顔で首を傾け、
俺に視線を向け続ける。

「この王国のお姫様、つまり貴方について。…お聞かせ願えますか?」

ニヤリ、と口角を引き上げるようにして笑う。お姫様は笑って、構わない
でしょう、と快く頷いてくれた。
サッシに座り、足を組む。

「…何処までご存知でしょうか?」
「この王国のお姫様が、薔薇姫様と呼ばれ慕われている事。王家の本名が
諸外国に一切知られてはいけないという規律。…それぐらいだ」
「それでは私の本名から教えて差し上げましょう」

そしてお姫様は、ローゼメイグ・シュルツ、と呟く。

「それが私の名前です。王家と国民しか知りません」
「俺に教えてもいいのかよ、ローゼメイグ・シュルツ様」
「ええ。貴方を気に入れば逃がします。気に入らなければ殺しますから」
「おー、怖」
「どうぞ、お好きに解釈していただいて結構です」

にっこりとお姫様が笑った。

「家族からはメグ、と呼ばれています。ロズレイドという種族から通称、
薔薇姫。そして私は……」

お姫様は俺の手を取り、自分の胸へ押し付ける。一瞬声が出そうだったが
すぐにそれは治まり、俺は苦笑した。
豊かでやわらかく暖かい―それを想像していたら、叫んだかもな。

「正真正銘、女性ではありません」

子供が悪戯をするときのような瞳でお姫様は笑った。とても楽しそうに。
さっきお姫様がためらいもなく自分の胸に俺の手を押し付けたのは、それ
が偽物だからだ。確かにそれなら躊躇はしないだろう。

「…意外だな。メグは女にしか見えなかったぜ」
「あら、それは光栄な事ですね。小さい頃からそう育てられましたから」
「洗脳大作戦か?」
「ふふ、そう言えば一番簡単なのでしょうね」

メグは俺の手を離し、自分の口元に手を当てくすくすと笑う。

「この王国の王位継承権は、男女どちらにあるかご存知ですか?」
「いや、全然。女にあるんだな、めずらしー」
「ええ。というより、女性にしか認められないといった方が正しいです」
「へーえ。説明してくれよ」

喜んで、と微笑んでから、お姫様は話し始めた。


この国は、代々女性を大切にしてきました。男性よりも立場を重く見て、
聡明な判断・思考と包容力で昔から男性を助けてきた事からこの国は女性
を王に定める事にしているのです。
私は別に王位を継承したいからこんなことをしているのではありません。
別にそんな事に興味もありません。この生活も、別に楽しくなどない。そ
れでは何故私が偽のお姫様を続けているか、というと…。

お姫様がすこし表情に影を作る。

私は、一卵性双生児の片割れとして生まれました。そしてもう一人、それ
が私の御姉様です。ローゼユウグ・シュルツ様。
でも御姉様は生まれて間もなく行方不明となりました。正確には何者かか
ら誘拐されたのですが。何年探し続けても、結局見つかっていません。
それでも王位を継承する者はいなければなりません。そこで身代わりが、
私です。私と御姉様は良く似ていましたから。
だから私は女性となって王位を継承します。御姉様を…御姉様のほんとう
の事を知っているのは私とカー・ベズスケールだけだから。

カー・ベズスケールというのは私の世話係です。私の性別も知っています
し、…残されていない筈の『お姫様』の成長記録をつけている者です。
御姉様は、誘拐されていないのです。本当は、本当は…


そして少し間を置き、メグは言った。
御姉様は既に、五年前の今日、自ら御命を絶っています、と。
冷たく、それだけを。


「…マジか」
「総て真実で御座いますよ、怪盗さん」


死体は保管してあります。綺麗なまま、今でも鑑賞に堪えうるぐらいはお
美しいまま、でしょうね。人形師が手を加えてありますから。
具体的は方法は、包丁で自ら胸の薔薇を一突き。たったそれだけで私たち
は命を捨てることができます…種族ゆえ。
理由は一切判明していません。ですが何者かに薬を嗅がされていたという
ことだけがわかっています。


「……実はその何者かも、私とカー・ベズスケールはわかっています」


私はそれに復讐するために、この国の王になる。





お姫様はなんでもないように言い切って、それから嘲るように笑った。



「それなら、俺がもっと良い方法で復讐させてやるよ、お姫様」
「もっと良い方法?…あ、私を姫等と呼ばないで。メグと呼んで下さい」
「俺が…」

俺がメグを攫ってやる。

「…随分と可笑しい冗談を仰るんですね」
「冗談じゃねえよ。本気だ」
「貴方にこの城の異常なトラップを潜り抜け私を連れ出す事ができて?」
「できるから言ってんだよ、メグ」

其処までいうとメグは楽しそうに笑った。
俺は眉間にしわを寄せる。

「何か可笑しい事でも?」
「いえ、…御免なさい。私にそう言ったのは貴方で50人目だったもので」

ふふふ、と口元に手を当て綺麗に笑うメグ。50人か、相当だな。
そしてそれと同時に、全く持って光栄な数だ。

「メグ」


そういって、触れるだけの契約をして見せた。


「…」

きょとん、言葉を失っているメグ。それはそれで可愛い。白い頬に手をふ
れさせてニヤリと笑った。

「私は男ですよ…?」
「ああ、そうだな」
「貴方も、男ですよね…?」
「ああ。もちろん」
「……本気だと、言いたいのでしょうね。セキル・ディング」

誰も知らないはずの俺の本名をさらりと口にしたメグにちょっと驚く。
メグはいたずらっぽく笑い、右手をすっと差し出した。



「どうぞ私を何処へでもお連れになって下さい、イクセ王国の正式な王位
継承者、……セキル・ディング様」







二人が口付けを交わした場所には薔薇の花びらがヒラリ……舞い落ちた。


PR
この記事にコメントする
Name
Title
Color
Adress
URL
Comment
Pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
08 2024/09 10
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
カテゴリー
フリーエリア
最新コメント
[04/03 蜻蛉]
[06/13 蜻蛉]
[05/09 うさみ]
[05/06 うさうさうさうさ]
[05/03 蜻蛉]
最新記事
最新トラックバック
プロフィール
HN:
itu
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
無題SSS。
意味不明なのは仕様で御座います故。
バーコード
ブログ内検索
最古記事
ブログの評価 ブログレーダー
忍者ブログ   [PR]